ホッキョクグマ(シロクマ)の生態とは?どこで見れる?

ホッキョクグマは、北極圏に生息する大型のクマです。厚い脂肪と毛皮で寒さに強く、水中での活動にも適応しています。主な食料はアザラシで、氷上での狩りが得意です。温暖化による海氷の減少は、ホッキョクグマの生存を脅かす深刻な問題となっています。
ホッキョクグマの生態
ホッキョクグマ(学名:Ursus maritimus)は、北極圏に生息する大型の肉食獣です。アザラシを主食とし、氷上での狩りを得意とします。厚い脂肪層と密生した体毛により、極寒の環境に適応しています。
生物学的には、哺乳綱ネコ目(食肉目)クマ科に属します。ヒグマ(Ursus arctos)と近縁で、交雑も確認されています。しかし、ホッキョクグマは、白い体毛、細長い体型、大きな足など、独自の形態的特徴を持ち、海洋生活への適応が進んでいます。
近年、地球温暖化による海氷の減少が、ホッキョクグマの生息環境を脅かしており、絶滅危惧種に指定されています。
ホッキョクグマは、北極圏に生息する世界最大の陸上捕食動物です。彼らの体は、極寒の環境に適応するために特別な特徴を持っています。
体の特徴
ホッキョクグマの体毛は、透明な中空構造をしており、光を効率的に捉え、熱を閉じ込めることで優れた断熱効果を発揮します。また、密集した下毛は、体温を逃がさず、寒さから身を守ります。
皮下には、最大で10cmにも及ぶ厚い脂肪層があり、断熱材として機能するだけでなく、エネルギー源としても重要です。
大きく幅広の足は、雪や氷の上で体重を分散させ、歩行を容易にします。足裏には、小さな突起があり、滑り止めとして機能します。
体毛の下の皮膚は黒色で、太陽光を吸収しやすく、体温を維持するのに役立ちます。
熱の放出を最小限に抑えるため、耳と尾は比較的小さいです。
体長と体重
オスの体長は2.0~2.6m、メスは1.8~2.4m程度です。
オスの体重は350~700kg、時には800kgを超えることもあります。メスは150~300kg程度です。妊娠中のメスは、さらに体重が増加します。
寿命
ホッキョクグマの寿命は、野生下で25~30年程度です。飼育下では、さらに長生きすることもあります。
生息地
ホッキョクグマは、北極圏の氷の海、沿岸地域、島嶼に生息しています。カナダ、ロシア、グリーンランド、ノルウェー(スヴァールバル諸島)、アメリカ合衆国(アラスカ)などに分布しています。
彼らは、海氷を狩りの足場として利用し、氷が張っていない期間は陸上で過ごします。
食性
ホッキョクグマの主要な食料はアザラシです。彼らはアザラシが呼吸のために氷の穴から顔を出す瞬間を待ち伏せたり、氷上に上がって日光浴をしているアザラシに忍び寄ったりして狩りをします。また、アザラシの巣穴を掘り起こして襲うこともあります。優れた嗅覚を活かし、遠くからでもアザラシの存在を察知できます。
アザラシ以外にも、セイウチ、魚、海鳥、ホッキョクギツネ、植物などを食べることがあります。飢餓状態の時には、人間が居住する地域に現れ、家畜やゴミを漁ることもあります。
天敵
成獣のホッキョクグマには、人間以外に天敵はほとんどいません。ただし、若い個体や病気で弱った個体は、オオカミやホッキョクギツネに襲われることがあります。また、セイウチは非常に大きく、強力な牙を持っているため、ホッキョクグマにとって危険な相手です。
ホッキョクグマの保全状況
ホッキョクグマは、ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)の附属書IIに記載されています。
ワシントン条約 附属書Ⅱ
現在は必ずしも絶滅のおそれはないが、取引を厳重に規制しなければ絶滅のおそれのある種となりうる種を掲載。商業目的の国際取引は可能だが、輸出国政府の発行する輸出許可書等が必要。
出典:環境省 – ワシントン条約とは
ホッキョクグマの場合、毛皮や剥製などの国際取引が、個体群に影響を与える可能性があるため、附属書IIに記載され、取引が規制されています。
絶滅危惧種については、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで、ホッキョクグマは「VU」(Vulnerable:危急種)に指定されています。これは、絶滅の危険が増大している状態を示します。ホッキョクグマの個体数は、気候変動による海氷の減少により、生息地の喪失が進んでいることが主な原因で減少傾向にあります。海氷はホッキョクグマがアザラシを狩るためのプラットフォームであり、海氷の減少は食料の入手を困難にし、繁殖にも悪影響を与えます。
ホッキョクグマの減少は、地球温暖化による海氷の減少が主な原因です。ホッキョクグマはアザラシを主な食料としていますが、アザラシを捕獲するために海氷を必要とします。温暖化が進み海氷が減少すると、ホッキョクグマは狩りができる期間が短くなり、十分な栄養を摂取できなくなります。
これにより、ホッキョクグマの繁殖率の低下、子グマの生存率の低下、成獣の体重減少などが引き起こされます。また、食料を求めて陸に上がる時間が増え、人間との接触が増加することで、衝突や駆除のリスクも高まります。さらに、海氷の減少はホッキョクグマの移動範囲を狭め、遺伝的多様性の低下にもつながる可能性があります。温暖化対策が遅れるほど、ホッキョクグマの個体数は減少し、絶滅の危機に瀕する可能性が高まります。
「ホッキョクグマ」と「シロクマ」って何が違うの?
「シロクマ」と「ホッキョクグマ」は、どちらも学名 Ursus maritimus という同じ動物を指しますが、「ホッキョクグマ」という和名と、一般的な呼び名である「シロクマ」について、上野動物園が過去に公式X(旧Twitter)で非常に興味深い由来を紹介しています。
話は今から122年前の1902年(明治35年)に遡ります。この年、ドイツの名高いハーゲンベック動物園から、日本初となるホッキョクグマのペアが上野動物園にやってきました。実は当時、上野動物園ではアルビノ(先天的に色素がない白変種)のツキノワグマや、それ以前には北海道で捕獲されたアルビノのヒグマも飼育していました。そして、これらの白いツキノワグマやヒグマのことを「シロクマ」と呼んでいたのです。
そのため、新たにドイツからやってきた本物の白いクマと、既存のアルビノの「シロクマ」を区別する必要が生じました。そこで動物園は、北極圏に生息するこのクマを、英名「Polar bear」の和訳である「ホッキョクグマ」と命名することにしました。この出来事がきっかけとなり、「ホッキョクグマ」が標準和名として広く使われるようになったとされています。つまり、上野動物園においては、元祖「シロクマ」は日本の在来種のアルビノであり、区別のために外来の白いクマが「ホッキョクグマ」と名付けられたという経緯があったのです。
上野動物園はこのエピソードを紹介するポストの結びで、「現在、地球温暖化の影響で北極の氷が薄くなり、そこで狩りをするホッキョクグマの生存が危ぶまれています。便利な暮らしを求める私たちが、多くの野生生物を苦しめていることを忘れてはいけません」と、私たち自身の生活と野生動物の現状を結びつけて警鐘を鳴らしています。
ホッキョクグマはどこで見れる?
2025年においても、ホッキョクグマは比較的多くの動物園で飼育されています。主に北海道の旭山動物園、おびひろ動物園、円山動物園、そして本州では、前述した上野動物園や名古屋の東山動植物園、大阪の天王寺動物園、アドベンチャーワールド(和歌山県)などが挙げられます。
旭山動物園では「ほっきょくぐま館」で、水中を泳ぐ姿やダイナミックな飛び込みを間近で観察できます。円山動物園では、繁殖にも力を入れており、愛らしい親子の様子が見られることもあります。東山動植物園では、ホッキョクグマの生態を学べる展示が充実しています。
2025年4月現在
円山動物園、旭山動物園、おびひろ動物園、釧路市動物園、八木山動物公園、男鹿水族館、上野動物園、よこはま動物園、八景島シーパラダイス、日本平動物園、浜松動物園、豊橋動物園、アドベンチャーワールド、天王寺動物園、王子動物園、とくしま動物園、とべ動物園、熊本市動植物園
ホッキョクグマのまとめQ&A
ホッキョクグマは、北極圏の過酷な環境に適応した、他に類を見ない存在です。分厚い脂肪層と密生した体毛は、極寒の地で体温を維持するのに役立ちます。また、ホッキョクグマは非常に優れたスイマーであり、獲物を求めて氷の間を長距離移動することができます。彼らの主食はアザラシであり、氷上で息継ぎのために顔を出すアザラシを待ち伏せたり、氷の下から忍び寄って捕獲したりします。
ホッキョクグマは、その生態系において頂点捕食者としての役割を果たしており、アザラシの個体数を制御することで、生態系のバランスを保っています。しかし、地球温暖化による海氷の減少は、ホッキョクグマの生活に深刻な影響を与えています。狩りのための足場となる海氷が減少することで、ホッキョクグマは食料を確保することが難しくなり、個体数の減少につながっています。
ホッキョクグマは、気候変動の影響を最も強く受けている動物の一つであり、その保護は地球規模での環境問題に対する意識を高める上で重要な役割を果たしています。彼らの未来は、私たち人類が温暖化対策にどれだけ真剣に取り組むかにかかっていると言えるでしょう。
北極圏の氷上や沿岸部に生息。カナダ、ロシア、グリーンランド、ノルウェー、アメリカ(アラスカ)など。
アザラシが主食。氷上で待ち伏せたり、呼吸孔で待ち構えたりして捕獲。
ホッキョクグマは絶滅の危機に瀕していると考えられています。
より正確には、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストにおいて、ホッキョクグマ(Ursus maritimus)は「危急種(VU – Vulnerable)」に分類されています。これは、「絶滅危惧種(EN – Endangered)」よりは一段階低いものの、「近い将来、野生での絶滅の危険性が高い」とされるカテゴリーです。