賢く活用!全国の自治体が行う移住・定住支援策

近年、「新しい生活様式」の浸透や地方での働き方の多様化により、都市部から地方への移住や、生まれ育った地域へのUターン・Jターンに関心が高まっています。しかし、「移住したい気持ちはあるけれど、何から始めればいいか分からない」「費用が心配」といった不安を抱える方も少なくありません。

そこで頼りになるのが、全国の自治体が独自に行っている移住・定住を支援するための様々な取り組みです。これらの支援策を賢く活用することで、移住のハードルを下げ、理想の暮らしを実現に近づけることができます。

この記事では、自治体が行う移住・定住支援策の種類や、その活用方法について詳しくご紹介します。

なぜ自治体は移住・定住を支援するのか?

多くの地方自治体では、人口減少や高齢化といった課題に直面しています。新たな移住者や定住者を呼び込むことは、地域の担い手を増やし、地域経済の活性化、文化の継承、多様性の確保など、地域を持続させていく上で非常に重要だからです。そのため、各自治体は知恵を絞り、魅力的な支援策を用意しているのです。

どんな支援策があるの?移住・定住支援策の種類

自治体が行う移住・定住支援策は多岐にわたりますが、主なものをいくつかご紹介します。

  1. 経済的な支援
    • 移住支援金・補助金: 移住にかかる費用(引越し費用、賃貸契約費用など)の一部を補助する制度です。要件を満たせば数十万円単位のまとまった金額が支給される場合もあります。特に、東京圏からの移住者に対して、国と連携して支援金を支給する自治体が増えています。
    • 住宅取得・改修費補助: 空き家バンクに登録された物件や、自治体が指定する区域内の住宅を取得・改修する際に費用の一部を補助する制度です。リフォーム費用を補助する制度もあります。
    • 家賃補助: 移住初期の経済的負担を軽減するため、一定期間の家賃の一部を補助する制度です。
    • 就業・起業支援金: 移住先での就職や、新たに事業を始める(起業・Uターン就農など)場合に支給される支援金です。地域によっては、特定の産業分野での就業を促進するための支援もあります。
  2. 住まいに関する支援
    • 空き家バンク制度: 地域の空き家情報を集約し、移住希望者に紹介する制度です。自治体が間に入ることで、安心して物件を探すことができます。
    • お試し移住体験施設: 短期的に移住地の暮らしを体験できる施設や住宅を提供する制度です。実際に住んでみることで、その地域の雰囲気や生活環境を肌で感じることができます。
    • 住まいの情報提供: 地域の不動産業者との連携や、公営住宅の情報提供など、住まい探しに関する情報提供や相談支援を行います。
  3. 仕事に関する支援
    • 就職情報提供・相談: 地域内の求人情報の提供や、キャリア相談、面接対策など、仕事探しをサポートします。ハローワークや地域の商工会議所などと連携している場合が多いです。
    • 創業支援: 創業セミナーの開催、専門家による個別相談、創業資金の融資あっせんや補助金など、地域での起業を後押しする支援です。
    • 農業・林業・漁業への就業支援: 第一次産業への就業に関心のある人向けに、研修制度や技術習得の支援、就業先の紹介などを行います。
  4. 子育て・教育に関する支援
    • 出産・育児に関する補助金: 出産祝い金や、子どもの医療費助成、保育料の補助など、子育て世帯向けの経済的支援です。
    • 子育て支援サービスの提供: 一時預かりや病児保育、放課後児童クラブの整備など、子育てしやすい環境づくりを進めています。
    • 教育環境に関する情報提供: 地域の学校情報や奨学金制度など、子どもの教育に関する情報提供を行います。
  5. その他の支援
    • 移住相談窓口の設置: 移住に関する様々な相談を受け付ける専門窓口を設けています。オンラインでの相談に対応している自治体も多いです。
    • 先輩移住者との交流機会: すでにその地域に移住している先輩移住者との交流会や、相談できる機会を提供し、移住後の人間関係づくりをサポートします。
    • 地域コミュニティとの交流支援: 地域のイベント情報提供や、住民との交流を深めるためのワークショップなどを企画・支援します。
    • お試しサテライトオフィス: 都市部の企業などが地方に短期的なオフィスを設置する際にかかる費用の一部を補助する制度です。テレワーク環境の整備支援なども含まれます。

ユニークな支援策を行う自治体

全国には、地域の実情や特色を活かしたユニークな移住・定住支援策を行っている自治体が多数存在します。これらの事例の中から、特徴的な取り組みをいくつかご紹介します。

北海道上士幌町

手厚い子育て支援に注力しています。ふるさと納税を活用した基金を積み立て、認定こども園『ほろん』を開園し、同園に通う子どもの保育料を完全無料化しました。また、高校生までの医療費の全額補助や、住宅購入助成として子供一人につき100万円をサポートしています。

生活体験モニター事業を提供しており、1週間から1カ月程度の短期滞在と1カ月から1年の中長期滞在が可能な移住体験施設を運営しています。移住者の約4割がこの体験を経て移住しています。

町独自のハローワークである「上士幌町無料職業紹介所」を開設し、仕事情報を提供しています。求人サイトでは、企業の採用情報だけでなく、特徴や社員の声も紹介しています。

宮城県七ヶ宿町

「地域担い手づくり支援住宅」は、新築の戸建て住宅に入居でき、20年間住むと土地と建物が無償で譲渡されるユニークな制度です。設計段階から移住者が参加できる仕組みを取り入れています。地域への貢献が要件となっており、面接時にその役割を明確に説明することで、移住前後のギャップを減らす努力をしています。

移住定住支援センター「七ヶ宿くらし研究所」に窓口業務や情報発信を委託しており、土日対応やオンライン相談など、移住希望者が相談しやすい環境を整備しています。移住者同士や地域住民との交流会も定期的に開催し、移住後のギャップ解消や地域に馴染むサポートをしています。

新潟県佐渡市

市民が自発的に移住・定住サポートに関わる取り組みを推進しており、民間の力を活用しています。集落連携型体験住宅」では、民間の空き家を集落が協力して維持し、入居希望者が集落メンバーとの面談を経て最大24ヶ月利用できる制度があります。入居者は集落行事への参加を通じて地域への定住を目指します。また、移住者・移住希望者の悩み相談に対応する「さど暮らしサポーター制度」も実施しています。

鳥取県琴浦町

空き家ナビ(空き家バンク)の活用促進が施策の中心の一つにあります。空き家ナビに登録された物件内部の様子を全国の自治体で初めて360度ビューで公開し、オンラインでの内見を可能にしています。また、空き家所有者向けの家財撤去費用助成を契約締結前にも活用できるようにするなど、移住希望者が物件を見やすくするための工夫も行っています。空き家ナビの利用促進に関連した奨励金やリフォーム助成制度も整備しています。

島根県海士町:

金銭的な補助ではなく、町との接点を作る中長期滞在型のプログラムによる「農業型」の移住施策に転換しています。「大人の島留学プロジェクト」は、学生から第二新卒を主なターゲットとし、町のシェアハウスでの共同生活や仕事、地域活動への参加を通じて、島を深く知ってもらうことを目的としています。このプログラムを通じて、想定よりも高い割合で実際の移住に繋がっています。滞在者が自身の体験をSNS等でリアルに発信することも、新たな参加者を呼び込む一助となっています。

岡山県和気町:

東京からの移住経験者を移住推進員として配置し、自身の経験を活かした相談対応や、移住希望者のニーズに合わせたオーダーメイドの町内ガイドを実施しています。これにより、移住希望者は生活環境や公共施設、空き家物件などを自身の目で確認し、納得した上で移住を決断できるようサポートしています。また、移住経験者である定住促進アドバイザーが、地域の文化や生活習慣に関する情報提供や交流機会を提供し、移住後の定住をサポートしています。

徳島県神山町

仕事を持った人や創り出せる人を誘致する「ワーク・イン・レジデンス」やサテライトオフィス誘致といった、移住者が仕事を得やすい・持ち込みやすい環境整備に注力しています。これにより、既に仕事を持って移住する人が増えています。また、子育て・働き盛り世代をターゲットにした賃貸住宅「大埜地の集合住宅」や、移住初期の滞在拠点となる「すみはじめ住宅」を整備するなど、多様なニーズに対応した住まいを提供しています。

大分県日田市

NPO法人リエラに「移住支え合い事業」を委託し、移住前相談から移住後のサポートまでを一括して実施する体制をとっています。また、市民ボランティア団体「ひた暮らし応援団」が移住者交流や相談対応を行い、市民目線でのサポートを提供しています。さらに、地区班単位で移住者受け入れの方針を決め、地域紹介シートを作成する「移住受入れ地域認定制度」を創設し、移住者と地域双方の安心に繋げています。

熊本県五木村:

村、地域おこし協力隊、NPO法人いつきつなぎが密に連携し、NPO法人に県外広報や関係人口創出事業を委託しています。関係人口創出の取り組みとして、学生向けの長期実践型インターンシップや、村内事業者と都市部人材の副業・兼業マッチングなどを実施しています。若い世代の新しい働き方として、複数の仕事を組み合わせて通年で働ける**「特定地域づくり事業協同組合」**を設立し、移住者の増加を促しています。

これらの事例は、子育て支援、住宅確保・活用、仕事創出、交流促進、相談体制強化、関係人口創出など、様々な側面から移住・定住を支援する具体的な取り組みを示しています。多くの自治体が、外部団体や地域住民との連携、既存資源の活用、ターゲット層に合わせた情報発信などを通じて、効果的な施策を展開していることが読み取れます。

(※上記の自治体名・支援策は例として挙げた架空のものです。実際の支援策については各自治体の公式情報を必ずご確認ください。)

支援策を探す上でのポイントと注意点

自分に合った自治体や支援策を見つけるためには、以下のポイントを押さえましょう。

  • 情報収集は徹底的に: 気になる自治体の公式ウェブサイトは必ずチェックしましょう。「移住」「定住」「支援策」といったキーワードで検索すると、関連情報が見つかります。移住・定住に特化したポータルサイトも多数存在するので活用しましょう。
  • 移住相談窓口を利用する: 多くの自治体には移住相談窓口があります。疑問点や不安な点を直接相談することで、より詳細な情報を得られます。オンライン相談や電話相談に対応している場合も多いです。
  • 複数の自治体を比較検討する: 興味のある地域が複数ある場合は、それぞれの自治体の支援策を比較検討しましょう。支援内容だけでなく、地域の雰囲気や生活環境、仕事の機会なども含めて総合的に判断することが重要です。
  • 支援策には条件がある: ほとんどの支援策には、年齢、居住期間、所得、Uターン/Iターンの別、特定の地域への移住など、様々な要件が定められています。自分がその要件を満たすかどうかを必ず確認しましょう。
  • 最新情報を確認する: 支援策の内容は年度によって変更されることがあります。必ず自治体の最新情報を確認するようにしましょう。
  • 「支援策ありき」ではなく、地域の魅力を重視する: 支援策は移住のきっかけや後押しになりますが、最終的にはその地域で暮らしていくことになります。支援策だけでなく、地域の文化、人柄、自然環境、生活の利便性など、自分が本当に魅力や共感を感じられるかどうかを大切にしましょう。

おわりに

全国の自治体は、多様な形で移住・定住を希望する人々を応援しています。これらの支援策を上手に活用することで、資金面や情報面での不安を軽減し、よりスムーズな移住を実現することが可能です。

まずは、気になる地域の情報を集め、自治体の移住相談窓口に問い合わせてみましょう。あなたの理想の暮らしを実現するための第一歩を、自治体の支援と共に踏み出してみてはいかがでしょうか。応援しています!

クラッチ編集部

役所や公的機関に関連した暮らしの情報サイトを運営しています。 どこに相談したらいいか、どこに問い合わせたらいいかなど、分かりやすくまとめた記事で情報発信を目指しています。

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