医療現場の国際化:外国人患者受け入れの現状と課題に迫る

近年、訪日外国人旅行者や在留外国人の増加に伴い、日本の医療機関で外国人患者を受け入れる機会が飛躍的に増えています。かつては「うちには関係ない」と考えられていた地方や中小規模の医療機関でも、外国人患者への対応は避けられない時代となりつつあります。政府や医療機関は、外国人患者が安心して医療を受けられる環境整備に取り組んでいますが、その道のりには多くの課題が存在します。

法整備と受け入れ推進の取り組み

日本政府は、観光立国推進の一環として「訪日外国人に対する適切な医療等の確保に向けた総合対策」を策定し、訪日外国人が安心して医療を受けられる環境整備を進めています。また、増加する在留外国人に対しても、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」が取りまとめられ、全ての居住圏で外国人患者が安心して受診できる体制整備が進められています。

具体的な取り組みとしては、厚生労働省と観光庁が連携し、外国人患者を受け入れる医療機関の情報を一元化した「外国人患者を受け入れる医療機関の情報を取りまとめたリスト(医療機関リスト)」を更新・公開しています。このリストには医療機関の所在地、対応可能な言語、診療科などの情報が含まれており、日本政府観光局(JNTO)のウェブサイトでも提供されています。

医療費については、我が国の医療保険に加入していない外国人患者の診療は自由診療となり、医療機関が独自に費用を設定できるとされています。また、医療通訳を活用した場合、その費用を患者に請求することも可能です。

外国人患者受け入れ体制の現状

医療機関の外国人患者受け入れ実績は増えており、2022年9月時点では、調査対象の病院の半数(50.0%)が外国人患者の受け入れ実績があると回答しています。

外国人患者の受け入れ体制は、以下のような状況です。

多言語対応の状況

外国人患者への言語対応で最も多いのは「簡単な日本語を使う」(64.5%)です。

次に多いのが「受付など機械翻訳で対応する」(37.4%)、「院内表示の多言語化」(28.0%)です。

多言語対応ツールを導入する場合、医療機関の職員が最も求めるのは「医療用語に対応している」(56.8%)こと、次いで「対応している言語の数が多い」(42.1%)こととされています。

医療通訳・コーディネーターの配置

「外国人患者受入れ医療機関認証制度(JMIP)」や「Medical Excellence Japan(JIH)」の認証を受けた医療機関では、外国人患者受け入れ体制が充実しており、医療コーディネーターの配置も進んでいることが報告されています。

2次医療圏(医療機関の機能や種類、患者の受診動向などを考慮した地域区分)の**約97.9%**で、医療通訳者、電話通訳、ビデオ通訳、自動翻訳デバイスなど、何らかの外国語対応が可能な病院が存在しています。

しかし、外国人患者の受け入れに**「消極的」と回答した医療機関が23.4%**に上るなど、積極的な受け入れには至っていない現状も存在します。

受け入れ現場で発生している問題点

外国人患者の増加に対し、医療機関の**約4割が「十分な患者対応ができていない」**と実感しています。これにより、様々な問題が生じています。

言語の壁

「言語の壁があるから」が外国人患者受け入れに消極的な理由の**52.0%**を占め、最大の障壁となっています。

具体的な問題として、「ヒアリングがスムーズにできず時間がかかる」(50.0%)、「困りごとがわからない」(45.2%)、「服薬コンプライアンスが伝わっているかわからない」(35.7%)などが挙げられています。

「きちんと通じているのか、いまいち分からない時がある」「英語が出来るスタッフが少ないので外国人患者とコミュニケーションが取りづらい」といった切実な声もあります。

特に「問診票の記載をお願いするとき」(52.3%)、「初診申込書など初回案内の対応をするとき」(41.1%)、「診察結果を伝えるとき」(40.2%)に多くの医療従事者が悩みを抱えています。

旅行者など、通訳や説明者がいない外国人患者の場合、意思疎通がさらに困難になることがあります。

医療保険に関する問題

「医療保険に関する問題があるから」が消極的な理由の40.0%を占めています。

文化・マナーの違い

「マナーなど文化が違うから」(32.0%)も問題視されています。

「意味が逆に通じてしまうことがあり、生活上の感覚の違いに注意する」という課題も指摘されています。

医療機関側の認知不足

厚生労働省の「外国人患者受入れのための医療機関向けマニュアル」について、「名前は知っているが内容は知らない」(47.5%)、「知らない」(20.7%)と、内容が浸透していない現状があります。

通訳費用を患者に請求できることを知らない医療機関も存在します。

こうした課題を背景に、医療安全の観点から「医療に特化したAI通訳サービスと医療通訳の資格をもつヒトに365日の通訳ができるハイブリッドなサービス」に64.4%の医療従事者が興味を示していることが明らかになっています。

未収金問題の深刻化

外国人患者の受け入れにおける大きな問題の一つが未収金の発生です。

発生状況

外国人患者を受け入れた実績のある病院のうち、約2割(19.9%)で未収金が発生しています。

2023年9月の1カ月間では、未収金があった病院は516病院に上り、1病院当たりの未収金総額が平均49.6万円と前年度の2.3倍に増加しました。

一部の医療機関では「月間500万円超」の大きな未収金が発生しているケースもあり、1件あたりの未収金額が「100万円超」となる事例も存在します。

背景と対策

未収金発生防止のため、医療機関向けマニュアルでは、外国人患者が海外旅行保険に加入しているかどうかの事前確認や、概算医療費の丁寧な事前説明が重要だとアドバイスされています。

外国人患者の診療費は自由診療として医療機関が価格を設定できますが、実際には**多くの病院が「通常と同様に1点単価10円」**で徴収しており、「1点あたり10円超」とする病院は14.5%にとどまっています。

通訳費用についても、請求する医療機関はごく一部であり、コストを十分に転嫁できていない現状があります。

未収金の増加は、医療機関の経営を圧迫する深刻な問題となっています。

まとめ

訪日外国人旅行者や在留外国人の増加は、日本の医療現場に新たな国際化の波をもたらしています。政府は医療機関リストの整備などを通じて受け入れ体制の強化を図っていますが、言語の壁、医療保険制度の理解不足、文化的な違い、そしてそれに伴う未収金問題など、現場には依然として多くの課題が横たわっています。

これらの課題を解決し、医療安全を確保しながら外国人患者を適切に受け入れるためには、医療に特化した通訳サービスの導入や、医療機関側の体制整備、そして費用請求に関する認識の向上が不可欠です。

クラッチ編集部

役所や公的機関に関連した暮らしの情報サイトを運営しています。 どこに相談したらいいか、どこに問い合わせたらいいかなど、分かりやすくまとめた記事で情報発信を目指しています。

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