知っておきたい熱中症警戒アラートと最新の対策

熱中症から国民の命を守るため、環境省と気象庁が共同で発表しているのが「熱中症警戒アラート」と、2024年4月から運用が始まった上位の「熱中症特別警戒アラート」です。
熱中症警戒アラートは、特定の地域で熱中症の危険性が極めて高くなることが予測される場合に発表されます。これは、日中の最高気温だけでなく、湿度や日差しなども考慮した「暑さ指数(WBGT)」が一定基準(33)に達すると予測された際に発令されます。発表されると、外出を控え、エアコンの使用や水分補給をこまめに行うなど、具体的な熱中症予防行動が強く呼びかけられます。
一方、熱中症特別警戒アラートは、熱中症警戒アラートよりもさらに一段階上の危険度を示すアラートです。広範囲で過去に経験のないような危険な暑さとなり、熱中症による重大な健康被害(救急搬送の多発など)が生じる恐れがある場合に、国が発表します。このアラートが発令された場合は、暑さ指数が35に達すると予測されるなど、より深刻な状況が想定され、最大限の熱中症予防行動に加え、地域全体での協力(共助や公助)による対策強化が求められます。
熱中症の暑さ指数(WBGT)とは?
熱中症の危険度を判断する上で重要な指標となるのが「暑さ指数(WBGT: Wet Bulb Globe Temperature)」です。これは、単に気温が高いだけでなく、「湿度」「日射・輻射(ふくしゃ)」「気温」の3つの要素を取り入れた総合的な指標で、人体の熱収支に与える影響を評価するために用いられます。
体感温度に近い暑さ指数は、以下のような点で気温よりも熱中症のリスクを正確に示します。
- 湿度: 湿度が高いと汗が蒸発しにくくなり、体からの放熱が妨げられます。
- 日射・輻射: 太陽からの直射日光や地面・建物からの照り返し(輻射熱)は、体温を上昇させます。
- 気温: 周囲の空気の温度自体も、もちろん体温に影響します。
暑さ指数が高いほど熱中症の危険性は増し、環境省の熱中症予防情報サイトなどでリアルタイムの数値を確認できます。
2025年6月1日から熱中症対策義務化(※特定事業活動における労働者に関して)
2025年6月1日から、特定の事業活動において、熱中症対策が義務化されました。これは、「特定の事業活動を行う事業者が講ずべき熱中症対策に関する省令」が施行されたことによるものです。
この省令では、主に屋外での作業を伴う建設業や製造業など、熱中症のリスクが高いと考えられる事業活動において、事業者に対して以下の対策を義務付けています。
- 暑さ指数の測定と基準値超え時の作業中止・軽減: 暑さ指数を定期的に測定し、一定の基準を超えた場合には、作業の中止や休憩時間の増加、作業内容の変更など、リスクを軽減する措置を講じること。
- 休憩場所の確保: 冷房設備を備えた休憩場所や、日陰となる場所を確保すること。
- 水分・塩分補給の徹底: 必要な飲料水や塩分を適切に供給し、労働者がいつでも摂取できる環境を整えること。
- 健康状態の確認: 作業開始前や休憩時などに、労働者の健康状態を確認すること。
- 熱中症に関する教育・訓練: 労働者に対し、熱中症の症状や予防方法、緊急時の対応などに関する教育や訓練を実施すること。
この義務化により、労働現場における熱中症による事故を未然に防ぎ、労働者の安全と健康を確保することが期待されています。
各自治体の取り組み例
熱中症対策は、国だけでなく各自治体レベルでも精力的に進められています。地域の実情に合わせた多様な取り組みが行われており、その一部をご紹介します。
- クーリングシェルター(避暑施設)の開設: 公民館、図書館、商業施設などを「クーリングシェルター」として指定し、冷房の効いた涼しい空間を住民に提供しています。高齢者や外出が困難な方々への周知も積極的に行われています。
- 独自の防災無線・SNS連携: 熱中症警戒アラート発表時に、防災無線で地域住民に直接呼びかけたり、自治体の公式LINEやX(旧Twitter)などを活用してリアルタイムで情報を発信したりしています。
- 地域見守り活動の強化: 民生委員や地域ボランティアが、高齢者宅を訪問し、エアコンの使用状況や水分補給の状況を確認するなど、きめ細やかな見守り活動を実施しています。
- 高齢者向けエアコン購入補助: 一部の自治体では、熱中症のリスクが高い高齢者世帯に対して、エアコンの購入や設置費用の一部を助成する制度を設けています。
- 学校や保育施設での対策強化: 屋外活動の制限、休憩時間の確保、水分補給の徹底に加え、熱中症に関する児童・生徒への教育も行われています。
熱中症警戒アラートはどこで確認できる?
熱中症警戒アラートの発表状況は、以下の様々な方法で確認できます。複数の情報源を活用し、確実な情報入手を心がけましょう。
環境省 熱中症予防情報サイトが最も基本的な情報源です。全国の暑さ指数やアラートの発表状況がリアルタイムで確認できます。
そのほかにも気象庁のウェブサイトなどでも確認できます。
環境省のLINE公式アカウントで情報を発信
より手軽に熱中症警戒アラートの情報を受け取る方法として、環境省のLINE公式アカウントがあります。友だち登録をすることで、設定した地域の熱中症警戒アラートが発表された際に、LINEのメッセージで通知が届きます。これにより、テレビやウェブサイトを確認する手間なく、スマートフォンでプッシュ通知を受け取ることができ、迅速な予防行動につなげられます。
熱中症警戒アラートをアプリでも提供開始
スマートフォンアプリでも熱中症警戒アラートの情報を確認できるサービスが増えています。気象情報アプリの中には、熱中症警戒アラートの通知機能が搭載されているものもあります。また、環境省が監修する熱中症予防を目的としたアプリなども開発されており、暑さ指数の予測や現在の値、予防策のアドバイスなどを提供しています。これらのアプリを活用することで、外出先でもリアルタイムで熱中症の危険度を把握し、適切な対策を取ることが可能になります。
熱中症の対策は?
熱中症を予防するためには、日頃からの意識と行動が重要です。以下の対策を徹底しましょう。
- こまめな水分・塩分補給: のどが渇く前に、こまめに水分を摂りましょう。汗をたくさんかいた場合は、スポーツドリンクや経口補水液などで塩分も補給しましょう。
- 涼しい服装と暑さを避ける工夫: 吸湿性や速乾性の良い素材の服を選び、首元や脇の下など、太い血管が通る部分を冷やすグッズを活用するのも効果的です。日中の暑い時間帯(10時~14時頃)の外出や運動はできるだけ避けましょう。
- 室内環境の調整: エアコンや扇風機を適切に使い、室温を28℃以下に保つようにしましょう。湿度も50~60%を目安に調整すると快適に過ごせます。
- 規則正しい生活と体調管理: 十分な睡眠をとり、バランスの取れた食事を心がけ、体調を整えることが大切です。体調が悪いと感じたら、無理せず休むようにしましょう。
- 高齢者や子どもへの配慮: 高齢者は暑さを感じにくく、子どもは体温調節機能が未熟なため、特に注意が必要です。周囲から積極的に声かけを行い、異変に早く気づけるよう気を配りましょう。
- 外出時の日差し対策: 帽子や日傘を活用し、できるだけ日陰を歩くようにしましょう。
実際に熱中症になったらどうしたらいい?
もしご自身や周りの人が熱中症になってしまった場合は、症状の程度によって対応が異なります。
軽症の場合(めまい、立ちくらみ、筋肉痛、汗が止まらないなど)
- 涼しい場所へ移動: エアコンの効いた室内や風通しの良い日陰へ移動させましょう。
- 体を冷やす: 衣服をゆるめ、体温を下げるために、首元、脇の下、足の付け根など太い血管が通る部分を冷たいタオルや保冷剤で冷やしましょう。
- 水分・塩分補給: 意識がはっきりしていれば、経口補水液やスポーツドリンクを少量ずつ、ゆっくりと飲ませましょう。
これらの処置で改善しない場合や、悪化する場合は、すぐに医療機関を受診するか、救急車を呼びましょう。
中等症・重症の場合(頭痛、吐き気、だるさ、意識がもうろうとする、けいれん、呼びかけに反応しないなど)
これらの症状が見られる場合は、直ちに救急車(119番)を呼びましょう。 救急車を待つ間も、上記の「涼しい場所へ移動」「体を冷やす」処置を継続してください。意識がない場合は、無理に水分を飲ませないでください。
熱中症は命に関わることもある非常に危険な状態です。異変を感じたら、ためらわずに適切な行動をとることが何よりも重要です。
熱中症は、予防できる災害です。熱中症警戒アラートや熱中症特別警戒アラートの情報を上手に活用し、適切な対策を講じることで、暑い夏を健康に乗り切りましょう。