強引な住宅リースバック契約にご注意! 住み慣れた自宅を失う「落とし穴」とは?

近年、自宅を売却しながら住み続けることができる「住宅のリースバック契約」に関するトラブルが全国の消費生活センター等に急増しています。特に、契約当事者の約7割が70歳以上の高齢者であり、深刻な被害が懸念されています。
リースバックとは? 自宅を売って住み続ける仕組み
リースバックとは、ご自身の自宅(マンション、戸建て住宅など)を不動産業者などの第三者に売却し、同時にその不動産の賃貸借契約を結ぶことで、売却後も引き続き同じ家に住み続けることができるサービスです。
この仕組みの主な目的は、まとまった資金を調達しながら、住み慣れた環境を変えずに生活を継続することにあります。例えば、老後資金の確保、住宅ローンの返済、相続資産の整理、または急な医療費の工面などのために利用されることがあります。
リースバックは、自宅を担保にお金を借りる「リバースモーゲージ」とは異なり、自宅の所有権が買主に移転する点が大きな違いです。リバースモーゲージが原則として配偶者のみの同居を認めるのに対し、リースバックでは家族の同居が可能です。また、リバースモーゲージは年齢制限がある場合が多いですが、リースバックには年齢制限がないことも特徴です。
リースバックのメリットとデメリット
リースバックには、以下のようなメリットとデメリットがあります。
メリット
- まとまった資金を短期間で調達できる。売却代金の使い道に制限はありません。
- 住み慣れた自宅にそのまま住み続けられる。引っ越し費用や手続きが不要です。
- 固定資産税や都市計画税などの維持費の支払いが不要になる。マンションの場合は管理費や修繕積立金も不要になります。
- 売却したことが周囲に知られにくい。
- 将来的に自宅を買い戻すことが可能な場合がある。
- 住宅ローンの早期完済につながる。
デメリット
- 売却価格が市場価格よりも安くなる傾向がある。通常の売却価格の約70%程度になることもあります。
- 毎月家賃の支払いが発生する。
- 自宅の所有権が買主(不動産業者など)に移転する。
- 賃貸契約の期間に制限がある場合が多く(一般的に2~3年以内)、原則として契約更新がない「定期借家契約」が用いられることが多いため、長期間住み続けられない可能性がある。
- 将来的に買い戻す場合、買戻し価格が売却価格よりも高額になるおそれがある。
- 譲渡所得にかかる税金が発生する可能性がある。
- 賃貸物件としての修繕費は、賃借人(元所有者)の負担となることが多い。
急増するリースバック契約のトラブル
国民生活センターに寄せられる相談件数は近年増加傾向にあり、2024年度には200件を超えています。特に、契約当事者の7割以上が70歳以上であり、80歳代が41.4%、70歳代が26.8%、90歳以上が5.9%を占めています。
主な問題点としては、以下の点が挙げられます。
長時間の勧誘や強引な勧誘によって、消費者が望まない契約をしてしまう。冷静に検討する機会が奪われ、相場より低い売却額で契約させられることがあります。
リースバックの契約内容が消費者に適切に理解されていない。特に、解約時の違約金や家賃の値上げに関する説明が不十分なケースが目立ちます。
「自宅に住み続けたい」という消費者のニーズに合致しない契約がなされている。「そのまま“ずっと”住み続けられる」と強調される勧誘が見られますが、家賃が支払えなくなれば退去を求められるリスクがあります。
判断能力が低下した高齢者がトラブルに巻き込まれている。相場よりもはるかに安い価格で自宅を売却させられるなど、不利な契約を強いられることがあります。
実際のトラブル事例
国民生活センターや報道では、以下のような具体的な事例が報告されています。
長時間・強引な勧誘による契約(80歳代男性の事例)
不動産業者からの電話後、自宅に訪問され、朝10時から夜10時過ぎまで12時間以上もの長時間にわたりリースバック契約を勧誘され、仕方なくサインしてしまったケースです。売却価格が安いと親族に指摘され解約を申し出たところ、手付金50万円の返還に加え、違約金50万円の支払いを求められました。契約書には記載があったものの、勧誘時には一切説明がなかったとのことです。 別の事例では、相場が約2400万円のマンションを1000万円で売却してしまい、1400万円も安く買われてしまった80代の女性のケースもあります。契約をキャンセルしようとしたところ、手付金の倍額である約900万円を請求されたとのことです。
高額な家賃値上げによる退去(70歳代女性の事例)
生活費に困りリースバック契約を結びましたが、3年後に家賃が約6万円から約11万円に突然高額になり、支払えなくなったケースです。業者からは「契約時に家賃が上がることは説明済み」と言われ、退去を求められました。
認知症高齢者の不利な契約(80歳代男性の事例)
認知症が認められた父親が、相場より非常に安価な400万円で戸建ての自宅を売却し、月額4万円のリースバック契約を結んでいたケースです。家族は自宅を取り戻したいと相談しています。
トラブルを避けるための対策
リースバック契約で後悔しないために、以下の点に注意しましょう。
勧誘が迷惑だと感じたらきっぱりと断る。
自宅を売却する意思がない場合は、「自宅は売りません」「契約はしません」などと、その場で明確に伝えましょう。消費者が勧誘を断ったにもかかわらず勧誘を継続することや、長時間の勧誘は法律で禁止されています。迷惑な勧誘対策として、通話録音装置付きの電話機を利用することも有効です。
自宅を不動産業者に売却した場合、クーリング・オフは適用されない。
不動産に関する取引は高額であり、売買契約が成立してしまうと、原則として無条件で契約を解除することはできません。売主都合で契約を解除する場合は、手付金の倍額を買主に支払う「手付倍返し」となることが多く、手付解除が可能な期間を過ぎると、契約条項に基づく高額な違約金が必要となることがあります。安易に契約しないようにしましょう.
売却後も住み続けたい場合、家賃を支払い続けられるか
リースバック契約では家賃が発生するため、貯蓄や収入と支出のバランスを考慮し、将来にわたって家賃を支払えるか十分に検討しましょう。特に、借金返済や生活費のために契約する場合、家賃を支払うことが困難になるリスクが高いです。 また、契約後に家賃が値上がりする可能性も考慮し、慎重に契約内容を確認しましょう。
契約する前に、家族や友人など信頼できる人に相談し、できるだけ一人で対応しないようにしましょう。特に高齢者の場合は、親族などのサポートが重要です。
複数の不動産会社に見積もりを依頼する。
1社だけの見積もりでは、提示された売却額が適正かどうか判断が難しいです。複数の会社から査定を受けることで、相場価格を把握し、より有利な条件で取引できる可能性があります。
「住宅のリースバックに関するガイドブック」(国土交通省策定)を活用する。
リースバックを検討する際は、このガイドブックを活用し、事前に複数の事業者から情報収集を行い、自分のライフプランに合った条件や手法を比較検討することが推奨されています。
賃貸借契約の種類と内容を詳しく確認する。
リースバックの賃貸契約には「普通借家契約」と「定期借家契約」があります。
信頼できる企業・担当者を選ぶ。
リースバックは長期にわたる関係となる可能性があるため、疑問点に丁寧に回答し、誠実に対応してくれる会社を選ぶことが重要です。
普通借家契約は、期間が定められていても借主が希望すれば更新が前提とされ、正当な事由がない限り貸主から契約解除を迫られることはありません。長く住み続けたい場合はこちらがおすすめです。
定期借家契約は、あらかじめ契約期間(通常2~3年)が定められており、原則として契約更新はありません。貸主と借主双方の合意があれば再契約も可能ですが、貸主の意向で拒否されることも多いです。リースバックではこの形式が多いため、長期居住を希望する場合は注意が必要です。 契約期間、賃料、敷金・礼金、再契約の条件、家賃値上げの可能性、途中解約の方法、修繕費負担など、契約書のすべての項目を慎重に確認しましょう。
不安を感じたらすぐに相談を
少しでも不安を感じたり、不明な点があれば、すぐに以下の相談先に連絡しましょう。
消費者ホットライン「188(いやや!)」: お住まいの地域の消費生活センター等をご案内する全国共通の3桁の電話番号です。
身近に高齢者がいる場合は、不審な人間の出入りや、高齢者の生活や言動、態度に変化がないかなど、日頃から見守ることが重要です。トラブルに気づいた場合は、家族やホームヘルパー、地域包括支援センターなどの職員からでも消費生活センター等に相談が可能です。
国民生活センターは、国土交通省と連携し、リースバックに関する基本的な知識やメリット・デメリット、不動産の売買・賃貸借契約の知識などを周知し、具体的な契約時に消費者が留意・確認すべきポイントをまとめたツールを提供する予定です。また、不動産関係団体に対しても、法令遵守や高齢者への配慮(丁寧な説明、リスク確認、家族への確認)を徹底するよう要望しています。