日本の絶滅危惧種とは?レッドリストの現状と保護への取り組み

日本には、世界的に見ても豊かな自然があり、多様な野生生物が生息しています。国土面積は狭いものの、日本ならではの固有種も多く存在し、豊かな生物相を有しているのが日本の特徴です。現在、日本国内には約30万種を超える生物が生息または生育していると考えられています。
しかし、これらの貴重な生物の中には、様々な要因によって絶滅の危機に瀕している種が多く存在します。地球上の種の絶滅速度は、過去100年で1,000倍にも加速しているとも言われており、特に人間活動が絶滅の原因に大きく影響していると考えられています。
絶滅危惧種(レッドリスト)とは?
絶滅危惧種とは、文字通り絶滅の危機に瀕している生物のことです。現時点では生息しているものの、個体数が減少し、将来的に地球上から姿を消す可能性がある野生生物を指します。
これらの絶滅の危機にある生物の情報をまとめたものがレッドリストです。世界的には、国際自然保護連合(IUCN)が作成しており、日本では環境省がIUCNの基準に準じた形でまとめています。レッドリストは、絶滅の危険性がある生き物を共有する資料であるだけでなく、地球における生物多様性を維持するための重要な指標となります。
環境省レッドリストは、日本に生息または生育する野生生物を対象に、専門家による検討会が生物学的観点から種の絶滅の危険度を客観的に評価したものです。このリストへの掲載は、捕獲規制などの直接的な法的効果を伴うものではありませんが、社会への警鐘として広く情報提供することで、様々な場面で活用されています。環境省レッドリストは概ね5年ごとに見直され、必要に応じて改訂されます。また、レッドリストに掲載された種の生息状況などをまとめたレッドデータブックも併せて作成され、概ね10年ごとに見直されています。
レッドリストでは、生物種の絶滅の危険度に応じて9つのカテゴリーに分類されています。主なカテゴリーは以下の通りです。
絶滅(EX):我が国ではすでに絶滅したと考えられる種
野生絶滅(EW):飼育下などでしか存続していない種
絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN):絶滅の危機に瀕している種(絶滅危惧IA類と絶滅危惧IB類を含む)
絶滅危惧IA類(CR):ごく近い将来、野生での絶滅の危険性が極めて高いもの
絶滅危惧IB類(EN):IA類ほどではないが、近い将来、野生での絶滅の危険性が高いもの
絶滅危惧Ⅱ類(VU):絶滅の危険が増大している種
準絶滅危惧(NT):現時点では絶滅危険度が小さいが、絶滅危惧に移行する可能性のある種
情報不足(DD):評価するだけの情報が不足している種
絶滅のおそれのある地域個体群(LP):地域的に孤立しており、絶滅のおそれが高い個体群
これらのカテゴリーのうち、「絶滅危惧I類(IA類・IB類)」と「絶滅危惧II類」に評価された生物種を絶滅危惧種としています。
日本の絶滅危惧種の現状
環境省が公開したレッドリスト2020によると、陸上植物、淡水・汽水魚類、昆虫類など13分類群において、絶滅危惧種は合計3,716種となりました。これは、レッドリスト2019の3,676種から40種増加しています。さらに、平成29年3月に公開された海洋生物レッドリストに掲載された絶滅危惧種56種を加えると、環境省が選定した日本の絶滅危惧種の総数は3,772種となります。
日本の絶滅種
すでに日本国内で絶滅してしまったとされる生物も存在します。日本固有に生息していた生物の中で、絶滅種として記録されているのは下記のような生き物が挙げられます。
ニホンオオカミ:本州・四国・九州に生息していましたが、1905年を最後に生息情報がなくなり、絶滅したと考えられています。
ニホンカワウソ:本州以南と北海道に生息していた2種類がいましたが、どちらも毛皮目的の乱獲などが原因で絶滅したと言われています。
オガサワラガビチョウ:小笠原諸島に生息していましたが、1828年に4個体が採取されたのみで、絶滅したと判定されています。
カンムリツクシガモ:日本では北海道に生息していましたが、1916年以降生存が不明となっています。
ミナミイトヨ:京都府と兵庫県に生息記録がありますが、1960年以降生息情報が皆無で絶滅したと言われています。
カドタメクラチビゴミムシ:高知県の洞窟でのみ確認されましたが、現在は絶滅したと考えられています。
絶滅の原因は様々ですが、多くの場合、人間の介入が影響していると考えられています。
日本の主な絶滅危惧種(一部紹介)
環境省のパンフレットや各記事では、様々な分類群の絶滅危惧種が具体的に紹介されています。ここではその一部をご紹介します。
哺乳類
ツシマヤマネコ:長崎県対馬にのみ生息する野生の猫です。大陸から約10万年前に日本に渡ってきたと考えられています。かつては繁栄していましたが、現在は食物の減少などにより絶滅の危険性が高まっています。
イリオモテヤマネコ:沖縄県西表島にのみ生息し、特別天然記念物に指定されています。現在の個体数は100頭前後と推定され、交通事故が主な個体減少の原因です。
ラッコ:水族館で人気ですが、国内頭数は3頭のみとされており、世界的な個体数減少により絶滅危惧IA類(CR)に指定されています。
ジュゴン:沖縄諸島周辺に生息する海獣で、漁業の網にかかることや餌場の減少などで個体数が減少しており、絶滅危惧IA類(CR)に指定されています。
アマミノクロウサギ:鹿児島県奄美大島などに生息し、国の特別天然記念物に指定されています。
エラブオオコウモリ:鹿児島県の口永良部島などに生息し、生息数は200頭以下と言われています。主な原因は森林伐採による生息環境の縮小です。絶滅危惧IA類(CR)に指定されています。
オキナワトゲネズミ:沖縄県北部の固有種で、国の天然記念物に指定されていますが、捕食や土地開発で個体数が減少しています。絶滅危惧IA類(CR)に指定されています。
鳥類
トキ:新潟県佐渡島などに生息しています。野生のトキは1981年に絶滅しましたが、中国から提供された個体からの繁殖・放鳥が進められています。絶滅危惧IA類(CR)に指定されています。
シマフクロウ:北海道などに生息する大型のフクロウで、絶滅危惧IA類(CR)に指定されています。
ヤンバルクイナ:沖縄県北部の山林にのみ生息し、マングースや野生化した犬猫による食害などで数を減らしています。絶滅危惧IA類(CR)に指定されています。
コウノトリ:繁殖中や越冬期間に日本全土に分布する大型の鳥です。絶滅危惧IA類(CR)に指定されています。
両生類
アベサンショウウオ:兵庫県などに生息し、絶滅危惧IA類(CR)に指定されています。
汽水・淡水魚類
ミヤコタナゴ:関東平野の一部に生息し、国の天然記念物に指定されています。絶滅危惧IA類(CR)に指定されています。
ニホンウナギ:絶滅危惧IB類(EN)に指定されています。
昆虫類
オガサワラシジミ:小笠原諸島に生息するシジミチョウの一種です。絶滅危惧IA類(CR)に指定されています。
植物
ハナシノブ:九州の山地に自生し、絶滅危惧IA類(CR)に指定されています。
その他、オコジョのように準絶滅危惧 (NT)に指定されている生き物もいます。
絶滅の背景にある原因
絶滅危惧種が増加している背景には、複合的な要因があります。中でも、人間の活動や地球環境の変化が大きく関わっていると考えられています。
人間の活動(開発・乱獲・汚染等):生息・生育地の破壊や悪化、開発目的や駆除目的の過剰な捕獲・採取が挙げられます。道路建設、ダム建設、森林伐採、農地開発、埋め立てなどにより、生物の住む場所が失われています。また、ペットや装飾品のための密猟や乱獲も生息数を減少させる要因です。
自然への働きかけの変化:かつて人間が自然と深く関わっていたことで維持されていた環境が、その働きかけの変化によって失われたり変化したりしています。
外来種:人間によって持ち込まれた外来種が、捕食、競合、病原菌の媒介などにより、在来の生物に大きな影響を与えています。
地球環境の変化:地球温暖化など、地球環境の変化も生物の生息に深い影響を与えています。気候変動により生息環境が変化し、生物が適応できずに絶滅に至る可能性があります。
交通事故:特にヤマネコなどの哺乳類では、交通事故が個体数減少の大きな原因となる場合があります。
絶滅危惧種を保護するための取り組み
絶滅の危機に瀕している生物を守るためには、様々な取り組みが行われています。
日本では、種の保存法に基づき、保護の優先度が高い種を国内希少野生動植物種に指定し、個体の譲渡規制、生息地の保護、保護増殖事業などの保全措置を講じています。個体保護としては、捕獲や採取、殺傷などに直接的な影響を与える行為を禁止したり、譲渡を規制したりしています。生息地保全としては、指定された場所を生息地等保護区に指定し、開発行為などを規制しています。また、保護増殖事業として、野生生物の生息状況の改善に向けた様々な事業が進められています。
国際的にも、絶滅の危機にある野生動植物を守るための条約が締結されています。ワシントン条約は、絶滅のおそれのある野生動植物の国際取引を規制し、絶滅を防ぐことを目的としています。生物多様性条約は、生物多様性の保全と持続可能な利用、遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分を目的とした条約で、絶滅危惧種の保護もその重要な一部です。国際自然保護連合(IUCN)は、レッドリストの作成をはじめ、野生生物の保護や調査研究など、自然環境分野で国際的な活動を行っています。
私たち一人ひとりにできること
絶滅危惧種を守り、野生生物と共生していくためには、私たち一人ひとりが意識を持ち、行動することが大切です。絶滅危惧種について学び、理解を深めること、環境に配慮した商品を選ぶこと、地域の自然環境を保全する活動に参加することなどが挙げられます。人間の活動が地球上の生命に大きな影響を与えることを忘れずに、今日からできることを始めることが重要です。
まとめ
日本の豊かな自然に育まれてきた多様な生物は、様々な要因によって絶滅の危機に瀕しています。環境省レッドリストによってその危機的な状況が示されており、多くの貴重な生物がレッドリストに掲載されています。
絶滅の背景には、生息地の破壊、乱獲、外来種、地球温暖化など、人間の活動に起因するものが多くあります。これらの課題に対処するため、国内では種の保存法に基づく保護施策や保護増殖事業が、国際的にはワシントン条約や生物多様性条約など様々な取り組みが進められています。
絶滅危惧種を守ることは、SDGsの目標達成にも繋がります。私たち人間は、豊かな自然の恵みの中で生きています。これからも地球に生きるすべての生物が共に暮らしていけるよう、一人ひとりが絶滅危惧種の現状を知り、自分たちにできることから積極的に取り組んでいくことが求められています。